淑女の情けは人の為ならず。
知り合いのSさんが、引っ越してきた。
奥様をなくされて一年足らず。
今日は、位牌を持って見えた。
位牌を運ぶ前に、たばこを5本ぐらい吸って、
「さあ、意を決して持ってくるか」
とつぶやいた。
私は、急に心配になった。位牌とともにこのままどっかに行ってしまわれるのではないか?大丈夫か?
「Sさん、ついていったるで、がんばってもってくるか?」
「ついてきてくれるか?」
「うんいいよ」
車を持ってきて、玄関に横付けし、位牌の運搬。
エレベーターに乗るときに、
「大事なものと一緒だから一人で乗りな。階段で行ってて待っててあげるから」
位牌とともにあがってきたSさんと部屋まで行き、
「もう大丈夫か?」
「まだあかんわ~~」
「つきあうわ~~ゆっくりしりん。トイレ行ってくるでな」
またSさんの部屋を覗きに行くと、ゆっくりとお祈りコーナーをととのえてみえる。気持ちはわかった。最後まで付き合うよ。
ようやく、次の荷物を取りに行った。
「靴はええやろ?」
「下駄箱あるんやで、くつももっていきん」
「女房のスリッパは車に乗せといてもええやろ?」
「あかん!一緒にどっかに行きたくなったらあかんで、もってきりん!奥さんもついてきてくれるようにスリッパもお部屋に持ってあがり」
「そうするわ」
エレベータでまた
「奥さんと二人で来るんやで。階段あがって待っとるでな」
なかなかあがってこないSさん。真っ赤な顔をしてエレベーターから降りた。
泣いていたのかもしれない。
泣いたら大丈夫や。
「もう、だいじょうぶやろ。ゆっくりかたずけりん。もういくよ」
「ありがとう。もう大丈夫。ゆりりんこちゃんも、日曜日とか行きたいとこあったら言うんやで。いつでものせてくでな」
「わ~~~っ。ありがとう!よろしくね」
結局、一人欠員が出たけど、二人補充。
女親分、欠員者は話題の宝庫だから、残しておくようにとのこと。
欠員なし。二人補充の本日であった。
車と彼氏は持たない主義の、淑女の日常は、こうやっていろどりゆたかなものになっていくのであった。
Sさんの奥さんに合掌。